年間100日、海の中を見つめる仕事

ひとくちに「漁師」と言っても、そのスタイルは多種多様。
船員を引き連れて大型船で沖合まで乗り出す漁もあれば、小さな船にひとりで乗って岸辺を行き来する漁もあります。
今回は、鶴岡市・油戸地区の佐藤満(みつる)さんによる「磯見漁」を取材させていただきました。

ひとつひとつ、
獲物を見つけて取っていく漁

磯を見る、と書いて「磯見漁(いそみりょう)」。
その特徴は、箱メガネと長~~い棒!(竿と呼びます)
海岸からすぐ近く、水深0~6メートルあたりの岩場
箱メガネで海の中を覗き込み、獲物を見つけると先端に金具のついた竿を差し入れて採取します。

竿の長さは、狙う獲物や漁船の長さに合わせて2~8メートル。
深い場所のものを狙う時は何本かをつなぎ合わせて使います。

先につける金具にはいろいろな形があり、その日の漁の獲物によって使い分けます。
(写真解説・サザエ用は先が4股に分かれており、貝全体を挟み込む。)
(海藻の「エゴ」を採るときは、くるくるした鉤爪。)
取材に伺った9月初旬は、エゴが終わり、アワビも禁漁期に入ったところ。
主にサザエを取る時期です。

「ほら、ここにサザエがある」
満さんは片手で船を操縦し、もう片方の手で箱メガネを私の方に寄せて、海中を見せてくれました。

大人が3人乗るのがギリギリな小さな船なので、海の揺れをダイレクトに感じます。
しかも、揺れながら、箱メガネの中をじっと覗き込むものだから、目が回りそう。
普段は乗り物酔いにかかりにくい私ですが、今回は酔うかも、と危機を感じました。

ところが。
箱メガネを覗いてサザエを見つけた途端、ワクワクして、船酔いが吹き飛んでしまいました。

見つけたサザエめがけて、満さんは長い棒をえいやっ!と突き刺します。
先端の4つ股の金具の間に、サザエがガッチリと挟まりました。その様子を水上から確かめたら長い棒を引き上げます。

捕らえたサザエを手に、満さんはポツリと呟きました。

「知ってますか?サザエは蓋を上げて、泳いでくるんですよ」。

サザエが、泳ぐ? 全く想像がつきません…。

「サザエは別にいっぱいいるからあんまり研究されてなくて、これは私が勝手に言ってることなんだけど。春先の海藻がいっぱい出てきた頃から、サザエがにわかに増えてきます。でも、いる場所が油戸全体じゃなくて、いつも同じ岩のところなの。それは、サザエは浮力を持っていて、蓋を開けたら、あとはもう潮に乗れるから、粟島とか佐渡島とか、南の方から流れに乗って来てるせいだろうなって」。

ほら、と手の中のサザエを見せてくれました。

「こんなにフジツボがついてるサザエは庄内のやつじゃないですよ。これは新潟の方から潮に流されて来たんじゃないですかね」。

たしかに、さっき箱メガネで覗いたとき、フジツボはあまりいませんでした。
満さんは年間に約100日、磯見漁を行っています。箱メガネで海中を見つめているうちに、気づいたことがたくさんあると言います。

「磯見漁業をやってると、周りが見えてくるんです。エゴが生える時期になるとサザエがどさっと来て、エゴを食べるわけよ。だからエゴを採ると中にサザエの産卵したちっちゃいのがいっぱいくっついているわけ。それは私も、ずっと油戸で暮らしてきたけど、この仕事を始めてから分かったけ」。

海の中にも色とりどりの四季がある

草原が春と夏でまったく異なるように、海中もまた、季節の移ろいとともに多彩な表情を見せます。そのため磯見漁では、時期ごとに異なるものを採取します。

冬12/20-1月いっぱい 岩のり
3月の中旬ー4月頭 あおさ
5月ー わかめ
春もずく
6月 もずく 1週間ぐらいで全部取っちゃう
7月ー8月 エゴ
1-8月と12月 アワビ
通年 サザエ
ニシガイ
岩牡蠣
(図解・佐藤満さんの磯見漁・年間スケジュール)

「一年を通して採るものはあって、一年間、いつの時期に何を取るか考えてやれば、磯見漁でも食べていけるだけの収入にはなると思う」と満さんは言います。
油戸の海岸は下からの風(西風や北風のこと)が吹くと波が高くなって出漁できません。磯見漁ができる年間およそ100日、ミツルさんは海の中をつぶさに観察しています。そのため、磯場の生き物たちの生態について、とても詳しいです。

「アワビは餌を食べに移動するときに凸凹のあるところだと自分の体がくっ付けないじゃないですか。だから平らな岩にしかくっ付かない。ところがサザエは潮で移動できるから、凸凹でも平らなところでも関係ない。どこさでもいるわけよ」。

「ニシゲも泳いでくるけど、ニシゲの場合は先発隊がいて、海藻が茂ってる岩を産卵できるように軟らかくする。スポンジのようになったところに後からたくさんやって来る。だから毎年、海藻があって、流れが良くて岩が軟らかいところに大抵いるの」。

「庄内産のワカメって、スーパーとかで見た時ないろ? でも実は、春先にはわかめが大量に芽吹く。昔は干して塩漬けにして売っていたけど、同じ時期にアワビが取れるようになったので市場価格の安いワカメは自家消費分以外、ほとんど採らなくなったのよ。アワビ獲りさ行って、アワビが見えないほどワカメがたくさん茂ってる。隠れてるのを探してまでアワビを獲らなくても、その時期はワカメを採ったらいいんでねかな? って思ってるんです」

磯の話をする満さんの瞳はキラキラしたエネルギーに満ちています。
そして、飛び出してくる話は、興味をくすぐるものばかり。
それはきっと、他ならぬ満さん自身が磯に面白みを感じているからなのでしょう。

「あおさやワカメは水深2メートル程度の浅い場所、もずくは水深4メートルぐらいの深いところに生えるんだけど、先に生えてた雑草が枯れてからじゃないと付かない。それで、もずくを採ってしばらくすると今度は同じ場所にエゴが生えてくるんです」。

水温の変化によってそれまで茂っていた海藻が枯れ、その後に別の海藻が生えてくることを満さんは「交代」と呼びます。生い茂った海藻は貝類の住処や、魚の産卵場所にもなっています。海藻を採って「交代」を促すことは海を豊かにすることに繋がっているそうです。

ところが、年によっては前の雑草が生えたままで、もずくが付かないこともあるそう。

「雑草を刈る機械があるわけじゃないから、手作業で雑草取りをしたらきりがない。だから雑草を刈ったりはしません。採るのは調整できるけど、生えるのは天然のままという感じだな」。
ちょっと苦笑いを浮かべながら話す、満さん。自然を人の手でコントロールしようと足掻くのではなく、あるがままの自然を受け入れる。そして恵みを享受する。浜に暮らす人たちはずっと昔から、こうやって海と向き合ってきたのでしょうね。

これからの庄内浜に期待すること

庄内浜では毎年、各港でアワビの稚貝を放流していますが、ここ2年ほど、アワビの漁獲高がガクッと下がってしまいました。

「以前は船の上から海中に稚貝を撒いていましたが、今年の春から、放流のやり方を変えることにしました。稚貝を外敵からやられないように容れ物に入れて、自然に着底したら底が抜けていって離れる、というやり方を水産研究所と一部の漁業者で試しています。
また、加茂水産高校の生徒たちの潜水実習を兼ねて、海に潜ってアワビにとって生息しやすい環境を選んで置いてきてもらう方法も試しています」。

放流したアワビを獲るのは、自分たちではなく、次の世代かもしれません。それでも、海の豊かさを守るため、それぞれの放流方法の効果を検証していく予定だそう。

「いま、油戸の集落で磯見漁をしているのは2人のみ。漁業者がいるというのは乱獲の抑止力にもなっているので、誰もいなくなると海が荒れると思います。だから若い人に、磯見漁を継いでも
らいたいですね」。

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