「吹浦の岩牡蠣」がブランドな理由

牡蠣といえば冬が旬で「英語でRのつかない月には食べられない」と言われてます。

ところが、これは広島県や宮城県で養殖されている真牡蠣の話。
岩牡蠣の旬は、6月から8月にかけて。庄内浜の夏の風物詩として親しまれています。

中でも特に人気があるのが遊佐町の吹浦港で水揚げされたもの。
その人気の秘密と、そしてブランドを守るための工夫について取材しました。

岩牡蠣_土門さん

岩牡蠣好きにはたまらない「吹浦産」というブランド

「岩牡蠣漁は5月末から始まって、8月いっぱいまで続くけど、いっちばん美味しいのはやっぱり、産卵する直前の8月あたまだの!」
そう教えてくださったのは、ここ吹浦港で漁師をして25年になる土門拓也(どもんたくや)さん。こんがり日焼けした肌と引き締まった身体が、いかにも海の男といった雰囲気です。

岩牡蠣_土門さん笑顔

岩牡蠣そのものは庄内浜全域に生息しているものの、ここ吹浦の港で採れたものが最も美味しいと評判です。それにはきちんとした理由があります。

「やっぱり、鳥海山の伏流水のおかげだのー。ここ吹浦は鳥海山のすぐ麓にあって、山からミネラル豊富な水が流れてくるからの!岩牡蠣は海の中の浅くて流れの速いところにいる。自分では岩にへばりついて動けないから、エサになるプランクトンが豊富に流れてくる場所に棲み着くんだろの」

ガハハと豪快に笑う土門さんのすぐ後ろには、恵みの山、鳥海山が聳えます。

岩牡蠣そのものは庄内浜全域に生息していますが、庄内浜の中でも、それぞれの港によってその味わいは異なります。例えば、鼠ヶ関で水揚げされた岩牡蠣は、塩味が強いのが特徴。それは、鼠ヶ関の港に流れ込む川が小さく、海水の塩分濃度が高いからだと言います。 ここ吹浦港は吹浦川の河口にあるだけでなく、わずか1kmほど北の釜磯海岸では、なんと海中から鳥海山の伏流水がボコボコと噴き出しています。真水が多く流れ込むので、塩味がマイルド。さらに鳥海山のブナ原生林によるミネラルが岩牡蠣の身を肥えさせ、まろやかな甘みと深いうまみをもたらします。プリップリの岩牡蠣を口いっぱいに頬張ると「吹浦の海を食べている」、そんな気持ちにさせられます。

石の上にも10年!?
時間をかけて育ちます。

庄内浜では岩牡蠣は素潜りか、船上から箱メガネでのぞいて竿で取る磯見漁で獲りますが、ここ吹浦では全員が素潜りで岩牡蠣漁を行っています。

漁が始まる6月頃、水温はまだ14〜15℃と低く、ウェットスーツ越しに寒さが肌を突き刺します。えいっと潜って岩間から牡蠣を見つけたら、右手に持ったJ字型の大きなバールで牡蠣を剥がします。歳月を重ね、岩の一部と化してしまった岩牡蠣にバールを差し込み、力を込めて振り回すーーーハードな作業で、息が続くのは数十秒です。

岩牡蠣_道具
岩牡蠣_J字バール

「牡蠣同士がくっついて塊になってるから、1回潜るだけで10個採れる時もあるし、空振りの時もあるのー」。 何度も潜水を繰り返し、網いっぱいの岩牡蠣が採レたら、今度は陸に上がって出荷の準備を行います。

岩牡蠣_獲ったばかり

岩牡蠣が出荷サイズまで育つのに、早いもので3年、大きいものでは10年以上かかります。成長する間に、殻の表面には様々な藻などが付着します。そうしたゴミを、出刃包丁を使ってひとつずつ落としていきます。包丁は塩水にやられ、すでにボロボロ。何年ものですか?と尋ねると「一日使えばこうなるよ」と土門さんははにかんだ笑いを浮かべていました。

岩牡蠣_ゴミとり
岩牡蠣_前後

「吹浦産」の美味しい牡蠣を
食べつづけるために

庄内浜の岩牡蠣は夏の味覚として人気が高いゆえに乱獲もしばしば。あまりに生息数が減ってきたため、庄内地域南端の鼠ヶ関港では今年2020年から3年間、岩牡蠣を地域全体で自主禁漁にすることを決めました。

ここ吹浦でも、資源の回復と保護のためにいくつかの取り組みを行なっています。ひとつは、1日に出荷できる数量の制限。そしてもうひとつは、岩盤清掃です。

8月中旬に産卵された岩牡蠣の卵は、1ヶ月から2ヶ月の間、海の中を漂います。そして漂う間に平らな場所を見つけ、定着する性質があるのだそう。

ところが…

「牡蠣を採った後の岩って、ごどごど(ガタガタ)してて綺麗で無いんだや。そごどこ綺麗さしねどや(綺麗にしないと)、あど卵がくっつがねんだや(卵がくっつかないんだよ)」 そこで漁師さんたちは、岩牡蠣漁が終わった後の9月にも海に潜り、岩壁に付いてる汚れをヘラで剥がし落として綺麗にしているのです。

岩牡蠣_ゴミ

また「牡蠣は当たるから怖い」と敬遠する方もいますが、並行して、安心・安全に対する取り組みも行われています。

ここ吹浦では漁協と漁業者が費用を負担し合って、大腸菌やノロウイルスなどの菌検査を行い、陰性になったらその年の岩牡蠣漁が解禁になります。

それに加え、近年では殺菌水で岩牡蠣に付着した菌を殺菌してから出荷するようになってきているそうです。

「殺菌をすれば貝に当たるってことが無くなる。まだ吹浦産の全量が殺菌されてるわけではないです。これを全量にしていって『吹浦の牡蠣は美味しいし安全だ』と言われるようにしていきたいのー」。 吹浦の海と山の魅力がたっぷりつまった岩牡蠣が、安心・安全を味方につけて、より多くの人に楽しんでもらえたら嬉しいなと思います。

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